2006年12月14日

6 憲法九条

 我が敬愛する後藤田正晴氏が亡くなって1年以上が経つ。
 彼ほど、人々の評価が時期により変遷していった政治家も珍しいのではないだろうか。警察官僚出身で自衛隊の立ち上げにも深く関与し、頂点に立つ田中角栄の腹心であった時期には、強権的なタカ派と見られていた。しかし、田中が権力の座から去り、中曾根内閣の官房長官に就いた頃には、逆に海外派兵に積極的だった中曾根首相をいさめるなど、自民党にあってのハト派の象徴のように言われ始める。
 しかし、当の後藤田本人の主張は始めから一貫して変わっていなかった。彼は自らの悲惨な戦争体験から、日本は二度と戦争に関わってはならないと銘記していた。
 後藤田氏は晩年「自分の目の黒いうちは憲法九条は絶対に変えさせない」と語っていた。彼がいなくなり、日本は今憲法改正の方向に動きつつある。

 国が国益を守るため、武力が必要であるというのは理解できる。しかし、理屈でなく、感情で私は戦争を否定する。それは人が人を殺してはいけないといった倫理的なことでなく、また人類は暴力を放棄すべきといった高邁な思想に基づくわけでなく、ただひたすら怖いのだ。自分が殺されること、人が平然と殺されるといった状況に置かれること、そして自分も人を殺すことを強要されること。とにかく恐ろしくてたまらない。
 だから、私はほんの少しでも戦争に向かう可能性が増す憲法九条改正には反対なのである。

 その憲法擁護論者である太田光氏の新刊を弊社で刊行した。
 最近の彼は左翼系文化人の代表のように見られているが、彼自身は右とか左とかいった寄った思想信条は持っていない。ただ人類は理想として平和を標榜すべきという信念は固い。
 本書の中で彼は憲法、戦争、犯罪、日本の在り方についてあますことなく語っている。しかしその中で彼が最も伝えたいのは、自分自身で考えることの大切さであると思う。ある決まった思想に凝り固まったり、世間の動きに惑わされず、オリジナルの思考を持つこと。そして周囲に流されることなく、自分自身の考えを貫くこと。一つのカテゴリーに取り込まれてしまうと、視野が狭くなって本質を見失ってしまう。
 太田光が「この本を出すことが、ここ数年の活動の集大成」とまで言う『トリックスターから、空へ』。是非、一度読んでいただければ幸いである。

太田新刊カバー.jpg

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